夏の終わりと、母との別れ その14

倒れて3日目、お医者様には「もう話かけても聞こえないだろう」と言われた母でしたが。

その日の午後になって、「いや、聞こえているのかも…」と思うようなことがありました。



倒れた日の夜、うちのいない間の話ですが。


母が朦朧としながらも、何度も携帯電話に手を伸ばして。

遠方に住む学生時代からの友人の声を聞きたがっていたと弟から聞きました。


しかしどうやら折悪く海外出張に行かれていたようで、父が電話を掛けても繋がらず…

その方にやっと連絡が付いて、この日の午後に駆けつけて下さったのです。


そして母の側で手を握り、何度も声をかけていただいたところ…


それまで安定してた脈拍が10近く上昇して。

手を弱々しくだけど握り返したり、「あ゛あ゛」と声にならない声を出して何か伝えようとしたりと

僅かながらに、母からの反応があって。


ああ、やっぱり聞こえてるかも…とこの時に思いました。


もう動かせる部位も殆どなくて、意思の疎通も難しい状態なのに。

そんな中でも出来る範囲で何か伝えようとしてくれてるんだな、と…



さらにお友達がいらして、2~30分が経ったくらいでしょうか?

今度は握られている手が、弱々しく追い払うような仕草を何度もし始めて。


後からそのお友達の方と

「あれは絶対に『忙しいのにごめんね、もう帰っていいよ…』って意味よね。」

と2人で言い合いました。


いかにも母の言いそうなことだったので…

2人ともその仕草を見て、ピーンときたんですよね(笑)


「ありがとね、忙しいのにからごめんね。 もう大丈夫じゃけ、帰りんさい。

 忙しいのにから、悪いわ。遠くまでありがとね。」

という母の声が、ほんの僅かな仕草から聞こえてくるようでした。


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